大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和31年(ワ)6603号 判決 1958年5月15日

原告 小林誠一

右代理人弁護士 山田徳治

同 柳原武男

被告 塚原博

同 塚原須美

右両名代理人弁護士 小山隼太

主文

被告塚原博は、原告が同被告に対して金二、四五一、六七六円を支払うのと引換に、別紙第一物件目録記載の土地を原告に引渡し且つ右土地について、原告のために、昭和三〇年一二月二六日の売買による所有権移転登記手続をすること。

被告塚原須美は、原告が同被告に対して金九五八、三二四円を供託するのと引換に別紙第二物件目録記載の建物を原告に引渡し、且つ右建物について、原告のために昭和三〇年十二月二六日の売買による所有権移転登記手続をすること。

原告のその余の請求は棄却する。

訴訟費用は被告等の負担とする。

本判決は被告等に対しそれぞれ土地及び建物の引渡を命ずる部分にかぎり仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

原告主張の日時に、原告を買主、被告等を共同売主として、被告博所有の本件土地、被告須美所有の本件建物及び被告博名義の電話加入権について、総価格を五〇〇万円と定めて売買契約が締結され、即日原告は被告等に対して手附金一五〇万円を支払い、且つ残代金の支払、不動産所有権移転登記、引渡及び電話加入権名義書換の期日を昭和三一年一月二七日と定めたことは当事者間に争いがない。

そこで次に被告等の契約解除の抗弁について判断する。成立に争いのない甲第一号証、証人井勝、同清水勲、同竹内厳の証言及び原告本人の供述を綜合すると、右残代金の支払の期限は、仲介者である安田信託銀行の係員の助言により、一応不動産取引の慣行に従つて一ヶ月後である昭和三一年一月二七日と定めるものの当事者間の協議により、多少の伸縮性を持たせる旨の了解があつたことが認められ、被告の主張するような、絶対不動のものとして約定されたものとは到底認められない。そして原告本人の供述によれば、同月二十六日に原告は被告等に対して、電話で残代金の支払が、日曜日(同月二十九日)になるかも知れぬと告げたところ、被告等はこれを了承し、これにより期限は同月二十九日まで延期されたものと認められ、被告等本人の供述中右認定に反する部分は措信できない。被告等は同月二十七日に、同日午後一二時までに残代金を支払わなければ契約を解除する旨を原告に電話で通告したと主張するのであるが、仮りにそのような通告がなされたとしても、それは、右に認定した通り一旦期限の延期の了解が成立した後のことであるから、契約解除の効力を生じない。そして証人竹内厳、同清水勲の各証言によれば、翌二十八日竹内が原告の使者として残代金(富士銀行支店長振出の小切手)を被告等方に持参して弁済の提供をしたことが明かである。従つて被告等の右解除の抗弁は理由なく売買契約は有効に存続するから、被告等は本件土地を原告に引渡し且つ所有権移転登記をする義務がある。

そして、被告等の右登記及び引渡の義務と原告の残代金支払義務とが同時履行の関係にあることは当事者間に争いがない。然し本件売買物件中電話加入権の時価が九万円であることは鑑定の結果により明らかであるところ、原告は本訴において、右電話加入権名義書換義務の履行に代る金九万円の損害賠償債権と残代金を対等額において相殺する旨の意思表示をしたから、残代金は、五〇〇万円から、既に支払つた手附金一五〇万円及び右の九万円を差引いた三四一万円である。

尚、前記の通り本件売買契約においては、売買価格の総額のみが定められ各物件の価格の内訳は定められなかつたものであるから、特段の定めなき限り被告等の右残代金請求権は分割債権であり、その分割の割合は、各物件の価格に応ずるものと解すべきである。そして鑑定の結果によると、本件土地の価格は、三五三〇、一二六円であり、本件家屋の価格は一、三七九、八七四円である。これにより右残代金を、土地と建物について分割すると次の通りになる。

(イ)  本件土地の残代金(被告博の分)

3,410,000円×3,530,126/4,910,000=2,451,676円(円以下四捨五入)

(ロ)  本件建物残代金(被告須美の分)

3,410,000円×1,379,874/4,910,000=958,324円(〃)

次に本件建物について、原告主張のような、抵当権設定登記、代物弁済による所有権移転請求権保全の仮登記及び賃借権設定請求権保全の仮登記の存することは当事者間に争いがないから、他に反証なき限り、原告が本件建物の所有権移転登記及び引渡を受けてもその権利の全部を失うおそれがあることは明かである。従つて、原告が、本訴において、本件建物の残代金について支払を拒絶するは正当である。(原告は建物代金全額一、三七九、八七四円について支払拒絶を主張するが、その一部は既に手附金一五〇万円中に含まれて支払われたものと認められるから、支払拒絶は前記(ロ)の建物残代金九五八、三二四円についてのみ効力を生ずる。)

次に被告等が、原告の右支払拒絶に対して、昭和三三年一二月一二日附内容証明郵便で、同月二三日までに残代金を供託することを請求すると同時に、同日までに供託がなければ本件売買契約を解除する旨を通告したこと及び右期日までに原告が残代金の供託をしなかつたことは当事者間に争いがない。然し右解除の通告をするに際し被告等は、本件土地建物の所有権移転登記及び引渡義務の履行の提供をしなかつたことは、被告等の自認するところであるから、右通告は解除の効力を生じない。被告等は、単に供託を請求する場合には、解除の前提として、同時履行の関係に立つ反対給付の提供をすることは必要でないと主張するのであるが、供託は弁済に代るべきものであるから、この場合においても、契約解除の前提要件に変更を来すものと解すべき理由はない。(被告等の援用する供託法第十条、供託物取扱規則第二条第二項第七号は、反対給付ある場合の供託の手続を定めたものに過ぎず、契約解除の問題とは関係がない。)

右に述べた理由により被告等の右契約解除の通告は、解除の効力は生じないのであるが、そのうち、原告の本件建物残代金の支払拒絶に対して、民法第五七八条により、供託請求をする部分は有効であるから、これにより原告の被告須美に対する本件建物残代金支払の義務は、同額の供託義務に転換したものと解される。

以上述べた理由により、被告博は、原告の本件土地残代金二四五、一七六円の支払と引換にその引渡及び所有権移転登記をすべき義務があり、被告須美は、原告の本件建物残代金九五八、三二四円の供託と引換にその引渡及び所有権移転登記をすべき義務がある。

よつて原告の本訴請求は右の限度において正当であるから認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用について民事訴訟法第八九条第九二条第九三条を、仮執行の宣言について同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 渡辺均)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例